高次脳機能障害をもたらす「びまん性軸索損傷」とは何ですか。また,事故との因果関係の証明として画像所見は必要ですか。

3,813 read.
ef384ec7adf00c35693b8b1af6db2dfd_m

 交通事故による脳損傷には,脳挫傷,脳出血といった局在的脳損傷とは異なる「びまん性軸索損傷」による場合があります。
 「びまん性軸索損傷」とは何かについては,後ほど御説明します。
 「びまん性軸索損傷」の問題は,高次脳機能障害といった外傷性脳損傷特有の障害を残しながらも,それを示す画像所見が必ずしも明確に得られないことにあります。
すなわち,急性期のみならず慢性期においても脳萎縮=脳室拡大を示す画像が得られない場合も多くあります。
しかし,外力が加えられたことにより,また軸索断裂の進行によって意識障害が生じることから,意識障害については,自賠責認定のみならず,訴訟においても高次脳機能障害等の残存症状が外傷性であることの要件として必要であると考えます。

1 びまん性軸索損傷とは 
交通事故による脳損傷には,脳挫傷,脳出血といった局在的脳損傷とは異なる「びまん性軸索損傷」による場合があります。
軸索(axon)とは,神経細胞から伸びる1本の長い突起(神経繊維)のことです。
軸索は束になっています。軸索は,大脳半球・小脳・脳幹・脊髄を結びつけるネットワークを構成する重要なものです。
交通事故により頭部外傷を受けた場合に軸索が,びまん性(広範)に,切断されてしまうことにより生じるのが,びまん性軸索損傷です。
そして,程度により高次脳機能障害が発症するリスクが極めて高いとされています。

2 びまん性軸索損傷の発症のメカニズムは 
 事故による衝撃で減速または加速運動が頭部に生じたときに,脳をゆがめる力が働きます。
脳も部位によって硬さが異なっているために一様にゆがむわけではありません。
そのために組織のゆがみに差が生じて,断裂が発生します。
その結果,脳に一次性びまん性軸索損傷が発生します。

さらに,直接的な外力による一次性びまん性軸索損傷に対して,受傷直後保たれていた連続性が,3~12時間の経過で軸索腫脹(axonal swelling)が起こり,受傷後4時間以降に軸索が断裂していく,二次性びまん性軸索損傷という概念が最近は提唱されています。

二次性びまん性軸索損傷は,一次性びまん性軸索損傷から必然的に引き起こされるのか,何らかの病態が加重して起こる二次的変化であるのか,現時点でも不明とされています。仮に,後者であれば,受傷後に治療法の存在する可能性が残されています。(「脳神経外科学Ⅱ」太田富雄編著 金芳堂 p1719)

3 事故によるものであるかの判断ポイントは 
高次脳機能障害が外傷性脳損傷による,つまり交通事故を原因とされるためには,以下の4つが基本的なポイントとなります。
(1)頭部打撲・受傷
(2)頭蓋内の受傷(脳損傷を示す画像)
(3)障害残存画像(事故後の脳萎縮・脳室拡大を示す画像)
(4)事故直後の意識障害

(1)の「頭部打撲・受傷」があれば,脳挫傷,脳出血といった局在的脳損傷であればその受傷を示す「画像」が得られます。

しかし,びまん性軸索損傷→びまん性脳損傷→高次脳機能障害という流れの中で,果たしてびまん性軸索損傷が発生していたのか,受傷時点では,(1)頭部打撲・受傷があっても,(2)頭蓋内の受傷が受傷時点での画像では明らかではないことが多いといわれています。
むしろ,受傷時点の画像には異常が認められないことの方が多いともいわれています。

4 急性期のびまん性軸索損傷の画像所見は 
外傷直後でのCTおよびMRI画像において,一見正常と認められることが多いとされています。
それは,軸索断裂による影響が事故直後では,出現していないからです。
逆に,外傷直後のそれらの画像は,受傷前の脳の状況にほぼ近いとも言えます。
しかし,精度の高いMRIを用いれば,脳内に点在する出血が認められることがあると言われています。
この時点では,出血が認められたとしても吸収されることもあり,遅発性の脳内出血として増大することもあり,断定はできないとされます。
しかし,重要なことは,この時点で受傷時に脳損傷があったことを示す画像が絶対必要な要件ではないと言うことです。

5 慢性期のびまん性軸索損傷の画像所見は 
①脳の状態
脳組織の一次性びまん性軸索損傷によって脳白質が損傷し,脳実質(中身)が全体として萎縮します。そのために慢性期までに脳室拡大が起こります。

②びまん性軸索損傷の画像診断
以上のとおり,慢性期までに脳室拡大が生じることから,画像から脳室拡大が認められるかが診断基準となります。
脳室拡大の確定のために3ヶ月,6ヶ月毎にCTおよびMRI画像を追っていくことが重要となります。

③6ヶ月以降の脳室拡大
びまん性軸索損傷においては,ほぼ約3ヶ月で慢性期に入り画像所見は安定するために,画像上も3ヶ月はおろか,6ヶ月以降も脳室拡大が認められる場合には,水頭症や外傷以外の原因も疑われます。

④脳室拡大の程度と重症度
脳室拡大の程度とびまん性軸索損傷の重症度は相関関係があり,さらに高次脳機能障害としての重症度にも密接に関係します。
つまり,一般的には脳室拡大に比例して高次脳機能障害の程度も重くなると言えます。
遷延性意識障害(植物状態)の場合には,大脳皮質だけではなく脳幹部の萎縮も存在すると言われています。

⑤この時期の画像
これは,障害が脳室拡大=脳萎縮の状態で残存していることを示す画像です。受傷を示す画像に対して障害残存画像と言うべきです。
上記のものは,明らかに障害残存画像が得られる場合のことであり,後で述べますように常に,得られるとは言えません。

6 びまん性軸索損傷において常に画像所見が得られるのか
 通常のCT・MRIでは,画像所見(障害残存画像所見)が得られない場合がある,それにもかかわらず,症状が残存しているというのは現実にはあり得ます。 
そこで,常に画像所見(障害残存画像所見)が得られないことを前提に,自賠責実務もスタンスを変え,そして裁判例も症状の推移と,そして何よりも受傷時に意識障害があったのか,それがどの程度であったかに重点を移してきていると言えます。

7 びまん性脳損傷における事故直後の意識障害の意味は
びまん性軸索損傷→びまん性脳損傷→高次脳機能障害という流れでは,頭部に加えられた外力が作用して脳神経の軸索を広範囲に(びまん性に)切断していくと言われています(このメカニズムについては異説もあります。)。
その外力がどの程度のものであったかは,(3)障害残存画像により脳萎縮・脳室拡大として,まずは客観的に判断されるのですが,もう一つは,意識障害の有無と程度が加わった外力(受傷機転)を判断するポイントとなります。

それは意識障害があったということが頭部に外力の加わった何よりも重要な現れだからです。

そして,意識障害の程度と時間と,その後の脳機能障害の程度とはほぼ比例関係にあるというのが現在でも定説と言えます。

自賠責のこの点での判断基準は次のとおりです。
①半昏睡以上の意識障害(JCSで3桁が,または,GCSで8点以下)が6時間以上続く
または
②軽症意識障害(JCSが2から1桁,または,GCSで13から14点)が1週間続く

問題は,自賠責の判断基準に達していない場合にもびまん性軸索損傷→びまん性脳損傷→高次脳機能障害が認められるかです。
判決例の流れは,自賠責で非該当とされた外傷性脳損傷を逆転させようとするものではありません。

しかし,今後は,意識障害を要件としながらも,どの程度のものまでが含められるかが検討されるべきです。
また,必ずしも現在の救急救命体制では,意識障害の判断に主観が入ったり,ばらつきがあるとも指摘されています。そのあり方を含めて「意識障害」の記録が整備されることが必要です。

 

代表弁護士岡田正樹による出版物です

ごめんじゃすまない! 自転車の事故

むさしの森 法律事務所 岡田 正樹 (著)

本書の特長は事故を起こした加害者、事故に巻き込まれた被害者の真実をもとに、それぞれの苦しみや悲しみの物語、危険運転に対する違反切符と罰則、過失の割合、賠償・慰謝料の実例、自転車用の保険、和解に導く弁護士の役目など、あらゆる面から自転車事故を解説しています。 大切なお子さんを加害者に、被害者にもさせたくない。子を持つお父さん、お母さんには必携の書です。

Amazon詳細ページへ

Linke公式Facebookページに是非「いいね」をお願いします!
「いいね!」を押すと、Facebookのニュースフィード上で士業士たちの最新記事を受け取れます。